高橋和巳『悲の器』(新潮文庫)

悲の器 (新潮文庫 (た-13-1))

悲の器 (新潮文庫 (た-13-1))

@書かなければいけない原稿を抱えつつ、現実逃避の一冊。



いま読み返すと、「なんでこの人の作品が人気あったのだろう?」と疑問になる書き手がいる。
たぶん、高橋和巳もその一人であろう。恥ずかしながら初読である。



@話としては、ようするに、世間知らずのおっちゃん(東大法学部教授)が、
病妻がいながら、家政婦に手を出し、寡婦だった彼女に後妻になれそうだ、という夢を与えておきながら、
さっさと、知的で教養ある若い女性との婚約を発表したため、家政婦によって訴えられたことから、
スキャンダルに巻き込まれていく……、という、1クールの帯ドラマ的展開。


こうまとめてしまうと、なんとも情け無い話なのだが、文体が、「いかにもアカデミズム」という 
主人公の独白体で書かれているので、そのズレが、なんだかそこはかとないユーモアになる。
自分の居場所は書斎にしかなく、誰にも心を開いたことはなく、研究室が一番落ち着く……、などと平気で書いているのだ。


  • アカポスを狙う男だったら、ぜったいに憧れる生活が描かれている作。だけれども、

アカデミズムにおける女性差別の問題を考えていくときには、格好の資料となるテクストだろう。


実は結構面白く読んだのかも。