2006-01-01から1ヶ月間の記事一覧

井上章一『愛の空間』(角川選書 ISBN:4047033073)

いつもの井上節が炸裂。歴史の叙述を、ペダンティックではなく、ごく自然にエンターテイメントにできる、枯れた雰囲気と脱力感は、赤瀬川源平にも似る。 資料の博捜も相変わらずだけれど、疑問も少し。「愛の空間」を見るには、谷崎の小説くらい適切なものは…

伊坂幸太郎『オーデュポンの祈り』(新潮文庫 ISBN:4101250219)

話としては、つまるところは《風が吹けば、桶屋が儲かる》の大がかりな展開。『ラッシュライフ』ISBN:4101250227 もそうだったけれど、この作者は、「超越的なもの」=「神」の形象に憑かれているようにみえる。しかも、「神」を見る者たち、「神」に救いを…

森博嗣『ナバテア None But Air』(中公文庫 ISBN:4122046092)

設定を知らないまま、シリーズ第2作から読むという無謀を冒してしまった。 「僕」と名のる女性パイロットの造形はたしかに魅力的だが、どうせこの人物を活かすのであれば、「僕」の女性性と向き合わせてしまう、という結末はどうかと思った。軍隊的な組織に…

吉田司『王道楽土の戦争 戦後60年篇』(NHKブックス ISBN:4140910461)

こうした二つの満鉄システム(大陸国家構想)の戦後日本への移植が、六〇年代「奇跡の高度成長」といわれたものの起動力・エンジンとなったのであれば、ナルホド中国植民地としての「偽満州」(「魂立国」の王道楽土)は滅亡したが、満州を作った技術や人脈…

吉田司『王道楽土の戦争 戦前・戦中篇』(NHKブックス ISBN:4140910453)

歴史に「たら、れば」は禁じ手だとよくいわれるが、たら・ればを考えることができるからこそ、そして、現在とはちがった「いま」を想像させるからこそ、歴史は面白い。これだけ思いっきり「たら、れば」を乱発してくれるほうがすがすがしい、というものだ。…

李相哲『満洲における日本人新聞経営の歴史』(凱風社 ISBN:4773624078)

中国・大連図書館、遼寧省図書館などに保管されていた資料を発掘・駆使した労作。第1部は満洲における日本人経営新聞の変遷と概説、第2部では満鉄機関紙(『満洲日報』、いろいろと紙名が変わっているのだが)の社説の内容分析がされている。とくに、第2…

類義語だが差はでかい

「切磋琢磨」と「足の引っ張り合い」の違い。これは、「リスクの問題化」という問いかけにとって重要なキー・ワードたりうる。

ラモン・ロペス・カロはビセンテ・デル・ボスケになれるのか?

集団への忠誠心を持ち込んだ、として、今のところ評価されているロペス・カロ。かれ自身は、ひょっとしたら化けるかもしれないが、問題はGMがホルヘ・バルダーノではない、ということだろう。マドリーのお高く止まった、だけれども、けっきょく勝てばいいん…

「円本」現象は何を変えたのか。

高島健一郎「「円本」の新聞広告に関する一考察」(『日本出版史料』2005.10 ISBN:4888883572)を読む。漠然たるイメージだけで語られがちな円本に対し、実証的なアプローチを試みるもの。広告の文言だけからでも、「円本」が、本という商品のサーキュレーシ…

猪口邦子さん、腕の見せ所ですよ。

自民党のジェンダー・フリーに対するバッシングは本当にやるせなくなるが、猪口さんは、火中の栗を拾ってしまったのではないか。それとも、それが彼女の次々露呈されつつある限界の、打ち止めになるのだろうか。 http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai…

鹿島田真希『二匹』(河出文庫 ISBN:4309407749)

愚鈍な登場人物を視点に据えた作品を書くのは、とても難しいことだ。作中の情報を提示する語り手の存在が際立ってしまい、そうなると、作に「猿回し」感が出てしまったり、人物の特別さが、過剰なロマン主義的な感傷=鑑賞の対象になってしまったりもする(…

「成人の日」って何の意味があるの

形式的な儀式・儀礼の多さこそ、「封建遺制」の残存の象徴であろう。いちいち、共同体から「大人」になったことを認めてもらわなければならない。他の儀式についても同様。

喜多流職分会 1月自主公演能

[喜多能楽堂 http://kita-noh.com/tushin/181noh_1.html]]初めての生での観能。正面やや上方のベスト・ポジションで見る。「翁」、狂言「昆布柿」、能「草紙洗小町」。正月だけに、めでたい番組構成となりました。すごく楽しめ、3時間30分はあっという間に…

「総括」としての『新世紀エヴァンゲリオン』

大塚英志やササキバラ・ゴウや村上隆の近業をみていると、それぞれ立場は違えど、それぞれのやり方で「戦後」のサブカルチャーを「総括」しようとする仕事が目につく。つまり、もういいかげんに、「祭り」は「終わり」にしようとしているわけだ(『ハウルの…

村上龍『希望の国のエクソダス』(文春文庫 ISBN:4167190052)

勝手な想像だけれど、今でも村上龍は、この作を読み返して、「自分の読みはガチに当たっていた」とかって思うのだろうか。もしそうだとしたら、救いようがない、と感じてしまう。物語としては面白いし、道具だてもそれっぽい。それこそ経済には素人なので、…

ワセダOBでなくてよかった

明治やワセダから立て看がなくなって、「きれいな」キャンパスができあがっていくことに 憤りと違和感を覚えながらも、そもそも立て看なんか存在しなかった大学に通っていた身としては、「モデル」になっているとすればなんだか複雑だなあと思うのだった。 …

桐野夏生『ジオラマ』(新潮文庫 ISBN:4101306311)

「デットガール」 「六月の花嫁」 「蜘蛛の巣」 「井戸川さんについて」 「捩れた天国」 「黒い犬」 「蛇つかい」 「ジオラマ」 「夜の砂」 日常の中で不意に抱くささやかな悪意を押し広げると、辛辣な物語となる。あんな奴、**になってしまえばいいのに。…

オーディエンスとしての「女性」という本質化。

学校という社会を卒業=離脱し、あるいは、企業という社会から離脱し、具体的な関係性の上では「社会」と距離ができてしまった女性たちが、メディアの受け手としてどのような(あやうい)再帰的自認を確保していくのか、という問いは重要。情報の量、不断に…

島田雅彦『子どもを救え!』(集英社文庫 ISBN:4087477282)

不意に訪れてしまった休みを有効に使いたいとは思うものの、そうはいっても、何をしていいのかわからず(本当はすべきことはいっぱいあるのだった)、いっぽうでは、やはりどこか周囲の正月気分に影響されていて、思いっきり集中力がなく、怠惰な一日をすご…

浦和 2−1 清水

日本版FAカップの決勝(○○杯という文字を書き込むのが嫌なので)。普段Jは見ないが、年に一度だけ、レベルを測るという意味で義務として見ている。というわけで選手も随分入れ替わっていて驚いたが、もっと驚いたのは、清水がとてもいいチームになっていた、という…