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島田雅彦『自由死刑』(集英社文庫)

自由死刑 (集英社文庫)作者: 島田雅彦出版社/メーカー: 集英社発売日: 2003/01/17メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 54回この商品を含むブログ (29件) を見る @小説に与えられた重要な役割の一つに、「思考実験」があると思うのだが、 1999年発表のこの作…

円地文子『朱を奪うもの』(新潮文庫)

朱(あけ)を奪うもの (新潮文庫 え 2-3)作者: 円地文子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1963/11メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログ (2件) を見る @「宗像滋子」ものの第1作(初出1955-1956)。そういえばこの時期の作家の作品は、 ある人物を…

島田雅彦『亡命旅行者は叫び呟く』(福武文庫)

亡命旅行者は叫び呟く (福武文庫)作者: 島田雅彦出版社/メーカー: 福武書店発売日: 1986/01メディア: 文庫 クリック: 6回この商品を含むブログ (2件) を見る @現実逃避の読書、その2。 憂国の人、島田雅彦の2番目の著作が、地下鉄駅内の古書店で売られて…

高橋和巳『悲の器』(新潮文庫)

悲の器 (新潮文庫 (た-13-1))作者: 高橋和巳出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1967/08メディア: 文庫 クリック: 15回この商品を含むブログ (11件) を見る@書かなければいけない原稿を抱えつつ、現実逃避の一冊。 いま読み返すと、「なんでこの人の作品が人気…

舞城王太郎『世界は密室でできている THE WORLD IS MADE OUT OF CLOSED ROOMS.』(講談社文庫)

世界は密室でできている。 (講談社文庫)作者: 舞城王太郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2005/04/15メディア: 文庫購入: 8人 クリック: 39回この商品を含むブログ (179件) を見る @舞城王太郎がどのように評価され、批評されているのか、業界の事情はわから…

中村政則『近代日本地主制研究 ――資本主義と地主制――』(東大出版会)

近代日本地主制史研究―資本主義と地主制作者: 中村政則出版社/メーカー: 東京大学出版会発売日: 1998/10メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (1件) を見る 著者は、戦前日本経済史を読む上で、(門外漢の)僕が最も信頼している書き手の一人…

檀一雄 『小説 太宰治』(近代生活社、1955)

神保町小宮山書店にて古本で購入。 太宰のこと、保田のこと、山岸外史のことと、小ネタは満載だけれど、 かんじんのことが書いていない。 この本も、太宰の「かんじんの」時代ではなく、太宰の20代が中心に描かれる。 檀一雄は、満州でいったい何をしていた…

堀田善衛『奇妙な青春』(集英社文庫)

指導者たちが老人に近い年齢であったことに不思議はなかったが、以前に、実際に運動をやったことのある人々は、すべて、昭和二十年現在で三十五、六歳以上で、事務や走り使い(レポ)などをしてくれる若い人たちは、それこそ本当に若い、十九、二十から二十…

新城郁夫『沖縄文学という企て』(インパクト出版会)

沖縄文学という企て―葛藤する言語・身体・記憶作者: 新城郁夫出版社/メーカー: インパクト出版会発売日: 2003/10メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (9件) を見る 日本文学という閉塞領域に風穴をあけるための役回りなどでは全くない沖縄文…

金井美恵子『ピクニック、その他の短篇』(講談社文芸文庫)

ピクニック、その他の短篇 (講談社文芸文庫)作者: 金井美恵子,堀江敏幸出版社/メーカー: 講談社発売日: 1998/12/10メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 7回この商品を含むブログ (24件) を見る @世の中には「才能」というものが厳然としてある、ということを…

福井晴敏『亡国のイージス 上下』(講談社文庫)

@書かねばならない原稿や、やらねばならぬ授業準備などがあるのだけれど、 その現実から逃避して、読破。狭い護衛艦が主な舞台だが、 それぞれの場面の細部を描く筆力があるので、どんどんページをめくる手がすすむ。 この作は、面白いかと問われれば、面白…

熊倉正弥『言論統制下の記者』(朝日文庫)

言論統制下の記者 (朝日文庫)作者: 熊倉正弥出版社/メーカー: 朝日新聞社発売日: 1988/04メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 1回この商品を含むブログ (2件) を見る@古書で購入した貴重な証言の一冊。筆者は元政治部記者。敗戦直後の、あまり知られていない…

高橋呉郎『週刊誌風雲録』(文春新書 ISBN:4166604864)

1922 「週刊朝日」「サンデー毎日」創刊 1945 「週刊アサヒ芸能新聞」創刊(11、日東新聞発行) 1954 徳間康快、東西芸能出版社設立。「アサヒ芸能新聞」を引き取る 1956 「週刊新潮」創刊(2)。「吉田茂回顧録」「眠狂四郎」で50万部を突破 1957 「週刊女…

坂上弘『優しい碇泊地』(福武書店 ISBN:4828823905)

今は無き文芸誌『海燕』に連載されていた連作中篇(1989-1991)。外国語の教師を企業に派遣するというベンチャーに勤務しながら、将来はMBAをとってやろうと目論んでいる「ぼく」を狂言廻しに、外人教師たちと企業人たちの人間模様が描かれていく。 と書いて…

大嶽秀夫『再軍備とナショナリズム 戦後日本の防衛観』(講談社学術文庫 ISBN:4061597388)

朝鮮戦争が引き金となった西ドイツの再軍備とは、対照的であった。すでに述べたように、西ドイツでは、兵舎に最初の一人が入隊するまで、数年間にわたって、国際的、国内的に深刻な対立を生んだが、それがかえって、諸利害、諸見解の調整の過程となり、長期…

江藤淳『閉された言語空間 占領軍の検閲と戦後日本』(文春文庫 ISBN:4167366088)

占領軍の検閲という「眼に見えない戦争、思想と文化の殲滅戦」――。江藤によれば、四年間にわたるCCDの検閲が一貫して意図したのは、「「邪悪」な日本と日本人の、思考と言語を通じての改造であり、さらに言えば日本を日本ではない国、ないしは一地域に変え、…

吉田裕『昭和天皇の終戦史』(岩波新書 ISBN:4004302579)

……わたしたち日本人は、あまりにも安易に次のような歴史認識に寄りかかりながら、戦後史を生きてきたといえるだろう。すなわち、一方の極に常に軍刀をガチャつかせながら威圧をくわえる粗野で粗暴な軍人を置き、他方の極には国家の前途を憂慮して苦悩するリ…

四方田犬彦『かわいい論』(ちくま新書 ISBN:4480062815)

わかったこと。 四方田犬彦は、いろいろな言語を知っている。 四方田犬彦は、いろいろな国に行ったことがある。 四方田犬彦は、博学である。 「かわいい」と「美しい」という語の対立が重要である。 「かわいい」を理解するためには、それが日本から発信され…

五百旗頭真『日米戦争と戦後日本』(講談社学術文庫 ISBN:4061597078)

アメリカに残された外交文書を精査・駆使しつつ、「占領後」の世界をどうすべきか、をめぐって争われた米国政府内部の政治プロセスを詳細にあとづける。歴史や政治というのはつねにそういうものなのだろうが、いくつもの偶然と、思いもよらぬ僥倖と、ちょっ…

ナンシー関『何がどうして』『何が何だか』(角川文庫)

いまごろナンシーがマイブームというのも気恥ずかしいのだが。思わず連続で読んでしまった。買ってきてさえしまった。エッセイとしては、すでに10年近く前の素材を扱っているわけで、時事性はすでに薄れている。それでも読めるのは、きちんと、構造を押さえ…

真保裕一『連鎖』(講談社文庫 ISBN:4061857193)

著者のデビュー作。いかにも若書きという感は否めない。息をつかせない展開力、というか、次々と「疑問」が出され、その次の章には「解決」してしまう、という「連鎖」が読み手を飽きさせない(2時間で読了してしまった)。だが、事件を複雑にしすぎてしま…

清水美知子『〈女中〉イメージの家庭文化史』(世界思想社 ISBN:4790710610)

かつて中流家庭の主婦は、家計の予算を立て管理し、女中の仕事ぶりを指揮・監督して家内を取り仕切るホームメーカー(家庭管理者)としてなくてはならない存在であった。それが、住み込み女中がいなくなったことで主婦は、「女あるじ」の座を手放し、無給のハ…

井上章一『愛の空間』(角川選書 ISBN:4047033073)

いつもの井上節が炸裂。歴史の叙述を、ペダンティックではなく、ごく自然にエンターテイメントにできる、枯れた雰囲気と脱力感は、赤瀬川源平にも似る。 資料の博捜も相変わらずだけれど、疑問も少し。「愛の空間」を見るには、谷崎の小説くらい適切なものは…

伊坂幸太郎『オーデュポンの祈り』(新潮文庫 ISBN:4101250219)

話としては、つまるところは《風が吹けば、桶屋が儲かる》の大がかりな展開。『ラッシュライフ』ISBN:4101250227 もそうだったけれど、この作者は、「超越的なもの」=「神」の形象に憑かれているようにみえる。しかも、「神」を見る者たち、「神」に救いを…

森博嗣『ナバテア None But Air』(中公文庫 ISBN:4122046092)

設定を知らないまま、シリーズ第2作から読むという無謀を冒してしまった。 「僕」と名のる女性パイロットの造形はたしかに魅力的だが、どうせこの人物を活かすのであれば、「僕」の女性性と向き合わせてしまう、という結末はどうかと思った。軍隊的な組織に…

吉田司『王道楽土の戦争 戦後60年篇』(NHKブックス ISBN:4140910461)

こうした二つの満鉄システム(大陸国家構想)の戦後日本への移植が、六〇年代「奇跡の高度成長」といわれたものの起動力・エンジンとなったのであれば、ナルホド中国植民地としての「偽満州」(「魂立国」の王道楽土)は滅亡したが、満州を作った技術や人脈…

吉田司『王道楽土の戦争 戦前・戦中篇』(NHKブックス ISBN:4140910453)

歴史に「たら、れば」は禁じ手だとよくいわれるが、たら・ればを考えることができるからこそ、そして、現在とはちがった「いま」を想像させるからこそ、歴史は面白い。これだけ思いっきり「たら、れば」を乱発してくれるほうがすがすがしい、というものだ。…

李相哲『満洲における日本人新聞経営の歴史』(凱風社 ISBN:4773624078)

中国・大連図書館、遼寧省図書館などに保管されていた資料を発掘・駆使した労作。第1部は満洲における日本人経営新聞の変遷と概説、第2部では満鉄機関紙(『満洲日報』、いろいろと紙名が変わっているのだが)の社説の内容分析がされている。とくに、第2…

鹿島田真希『二匹』(河出文庫 ISBN:4309407749)

愚鈍な登場人物を視点に据えた作品を書くのは、とても難しいことだ。作中の情報を提示する語り手の存在が際立ってしまい、そうなると、作に「猿回し」感が出てしまったり、人物の特別さが、過剰なロマン主義的な感傷=鑑賞の対象になってしまったりもする(…

村上龍『希望の国のエクソダス』(文春文庫 ISBN:4167190052)

勝手な想像だけれど、今でも村上龍は、この作を読み返して、「自分の読みはガチに当たっていた」とかって思うのだろうか。もしそうだとしたら、救いようがない、と感じてしまう。物語としては面白いし、道具だてもそれっぽい。それこそ経済には素人なので、…