鹿島田真希『二匹』(河出文庫 ISBN:4309407749)

愚鈍な登場人物を視点に据えた作品を書くのは、とても難しいことだ。作中の情報を提示する語り手の存在が際立ってしまい、そうなると、作に「猿回し」感が出てしまったり、人物の特別さが、過剰なロマン主義的な感傷=鑑賞の対象になってしまったりもする(例、芥川のいくつかの作品、例えば「南京の基督」)。しかも、それを複数の人物の書き分けとして行うのはもっと困難だ。本作は、そのハードルの高さに挑戦した意欲作。人格が剥離していき、動物化していく男たち。しかも、視点人物の二人が双方ともに分裂していくので、主体の連続性があるときに見られた部分と、主体が壊れているときに見られた部分とで、記述の内容も認識される事態もまるで変わってしまう。学園小説のスタイルを借りているが、実験的な野心を買いたい(文庫版の解説にある「抱腹絶倒」という言い方は犯罪的に間違っている)。