山崎敬之『テレビアニメ魂』(講談社現代新書 ISBN:4061497898)

こういう証言が真剣に求められ始める、ということは、記憶の整理期であり、どうじに、創作の涸渇期でもある、ということなのでしょう。

「日本のテレビアニメは“動かない”」
 業務提携のために来日したディズニーのスタッフが、わが国のアニメーションについてそう評したことがある。それは、こういう意味だ。
 たとえば同一画面にふたりの人物がいるとする。片方の人物がセリフを話し、片方は黙っているその間、日本のテレビアニメの場合、話している人物だけが動き、もうひとりの人物はじっとしていてまったく動かないのである。
 ディズニーの作品では、もう片方の人物も必ず動いている。これは実際に映像を見れば読者にもご確認いただけるはずだ。では、なぜそうした違いが生じるのだろうか。
 同一画面でふたりの登場人物に別々の動きをさせる場合、二体の動きを別々の動画用紙に描き、撮影のときにそれを合わせて撮るという方法をディズニーなどでは採っている。
 一枚の動画用紙に二体の動きを一緒に描きこむのは、細かい計算が必要になり、非常に煩雑な作業となるからだ。
 つまり、二体を同時に動かすには動画枚数が二倍必要になる。しかし、制作時間と予算が限られている日本のテレビアニメでは、とてもディズニー映画のようには動画枚数を使えないのだ。悔しいが、彼らの言う“動かない”絵しか撮れないのは事実だった。