宝生月並能 3月公演

宝生能楽堂http://www.hosho.or.jp/nou/2006_03/tsukinami.html

  1. 「弓八幡」
  2. 「磁石」
  3. 西行桜
  4. 「海人」


宝生能楽堂にて月並能公演。お目当ては最後の「海人」だったが、その前の「西行桜」を観て、不思議な気分にさせられてしまった。

要するに、能の素人のぼくが眠くなってしまっただけなのだけれど、その心地が、どうにも奇妙な感じだった。

西行桜」では、シテもワキも、とくだん大きな動きをするわけでもない(ワキ=西行は、ほとんど座りっぱなしだ)。シテの舞も、似たような所作の単調な反復に見える(わざとワキもシテも、そして笛や鼓もご老体が務めておられる)。それに、低音によるコーラスが重なることで、一種の催眠効果が生じ、まどろみのなかで、独特な雰囲気が作られつつあることが理解される。

夢うつつの状態で、ふと舞台を見上げる。そんな状態が、何度となく繰り返されていくうちに、〈この時〉が、いつとも知れず、ずっと続いてしまうかのような錯覚に襲われるのだ。

不意に訪れた花見客によって、わび住まいを邪魔されてしまった「西行」の歌をめぐって、「西行」と、彼にしか見えていない「花木の精」との内的な対話が始まっていく、という物語は、夜明けとともに、まるで夢から醒めたかのように終わっていく。そんな内容なのだから、ぼくの受容のしかたは、この作にふさわしかったのだ、という言い方は、強弁に過ぎるだろうか。