吉田司『王道楽土の戦争 戦後60年篇』(NHKブックス ISBN:4140910461)

 こうした二つの満鉄システム(大陸国家構想)の戦後日本への移植が、六〇年代「奇跡の高度成長」といわれたものの起動力・エンジンとなったのであれば、ナルホド中国植民地としての「偽満州」(「魂立国」の王道楽土)は滅亡したが、満州を作った技術や人脈、システム工学などは生き残り、〈もう一つの満州〉建国が日本国内で進められた=それがわれらの〈戦後〉というものの実相だったと考えても大きな間違いにはなるまい。
 一九二〇〜三〇年代中国大陸で、清朝や中国軍閥蒋介石政権下の封建農村が関東軍と満鉄・満業(鮎川コンツェルン)などの新興財閥コンツェルンなどの手でドカンドカン爆破・改造されて輝かしい近代的《工業満州》が生まれていったように、戦後日本のまだ〈魂立国〉をひきずっていた封建農村地帯は国土総合開発や列島改造の名の下にドカンドカン爆破され、公害ニッボンの重工業地帯=高疫経済成長の根拠地か形成されていった。「六〇年代の奇跡」とは、〈農業日本〉が〈工業日本〉に変貌したことを意味していた。しかしそれは一九三〇年代の日本人が、時代遅れの〈農業中国〉を〈工業中国〉に変えた!と叫んだあの満州時代のスローガンそっくりそのままのリフレインではなかったろうか……!?

「人」と「人」との関係は、まさに「脈」のように、波うち、連なっていって、物事を動かすことがある。ある世代以上にとっては常識なのかも知れないが、吉田氏が紹介する人物関係にはちょっとたじろいだ。

そして、恥ずかしながら、新幹線と満鉄とのつながりも知らなかった。島親子の執念、おそるべし。そして、満鉄・満州国人脈の、いちど思いっきり実験しているがゆえのリアリズムもなんだか恐い。
それにしても、日本帝国はよくよく悪い例をつくってしまった。いま、合州国が得意にしている親米傀儡政権作りって、ほとんど、日中戦争中の日本のやり口なのでは?