井上章一『愛の空間』(角川選書 ISBN:4047033073)

いつもの井上節が炸裂。歴史の叙述を、ペダンティックではなく、ごく自然にエンターテイメントにできる、枯れた雰囲気と脱力感は、赤瀬川源平にも似る。
資料の博捜も相変わらずだけれど、疑問も少し。「愛の空間」を見るには、谷崎の小説くらい適切なものはないのに、どうして『痴人の愛』も『卍』も『蓼喰ふ虫』もないのだろうか? 『卍』では、夫婦がダブルベッドで寝ているし、逢い引きの空間には、宝塚新温泉の家族風呂とか、待合だか旅館だかよくわからない料理屋とか、いろいろと出て来るのに。どうやら、メジャーな資料は使わない、という自己規制があるようだ。