たちさわぐ偽史たち、あるいは大塚英志『木島日記』『木島日記 乞丐相』(角川文庫)

木島日記 (角川文庫)
木島日記 乞丐相 (角川文庫)

実在の人物・実際の事件に虚構の皮膜をかぶせ、物語を介して世界を浮かび上がらせていく。文庫版『木島日記』の巻末で、大塚じしんが言っているように、虚構言語としての小説のひとつの可能性は「偽史」にある。そして、「偽史」とは言っても、虚構世界の中の論理に整合性があり、制度的に多くの人々に伝えられ信じられていれば、(そして、適度の実証生があれば)それはすでに「歴史」になる。
だから、昭和初年代に物語世界の時間を選んだ大塚の選択は適切だ。時の政府が大がかりな「偽史」を作っていたわけで、そこには、さまざまな「偽史偽史」が、まるで蔦のように、あたりを覆い尽くしていくのだから。


ほんとうは、昭和初年代に大量に書かれた「大衆文学」が、この可能性を追っていたはずなのだ。研究者は、ちゃんと気が付いてはいないようだけれど。