福井晴敏『亡国のイージス 上下』(講談社文庫)

@書かねばならない原稿や、やらねばならぬ授業準備などがあるのだけれど、
その現実から逃避して、読破。狭い護衛艦が主な舞台だが、
それぞれの場面の細部を描く筆力があるので、どんどんページをめくる手がすすむ。


この作は、面白いかと問われれば、面白い。
だけれど、読み終わったのち、何かひっかかるところがあるのも事実。


エンターテイメントだから、というわけではない。この作で描かれている事件に
かかわっていく人間たちのMotivationが、まるでわからない。


北朝鮮のテロリストが、すでにひそかに対米宥和協調に傾きつつある
自国の政策に嫌気がさして、という設定は、『シュリ』と同じ。
でも、この物語を作っていく上で必須であるはずの、肝心の海上自衛官たちの
「蹶起」にいたる経緯、動機付け、思想信条などが、
考えれば考えるほど、どうにも薄っぺらいのである。


にもかかわらず読ませてしまう筆力はただ者ではない、とは言えるけれど、
フィクションとしての完成度からすれば、やはり問題あり、である。


それにしても、2005年は海上自衛隊は映画の中で大活躍でしたね。
防衛庁にとっても、いい宣伝になったでしょう。戦争中の現在。