金井美恵子『ピクニック、その他の短篇』(講談社文芸文庫)

ピクニック、その他の短篇 (講談社文芸文庫)

ピクニック、その他の短篇 (講談社文芸文庫)


@世の中には「才能」というものが厳然としてある、ということを、つくづく思い知らされる短篇集。
 金井氏の操ることばの冴えが、短篇であるだけに、より一層際立つ。


@一番のお気に入りに挙げたい作がいっぱいあって困るのだけれど、
 いつしか行われている人称の交替が、泉鏡花のように、言葉のあやなす記憶の迷宮に読者を迷い込ませていく
 「月」や、


 うってかわって、中年の文芸批評家の、なんとも「ブンガク」から遠く離れた日常がごく散文的に描かれていて、
 でもそれがかえって小説というジャンルにふさわしいあり方なのではないか、という思いを引き起こしてくれる
 (つまり、ある意味で『ボヴァリー夫人』のような)
 「あかるい部屋の中で」


 が、とくにいいかな。でも、読み返すとまた印象は違ってくると思う。それだけの短篇集である。