中村政則『近代日本地主制研究 ――資本主義と地主制――』(東大出版会)

近代日本地主制史研究―資本主義と地主制

近代日本地主制史研究―資本主義と地主制


著者は、戦前日本経済史を読む上で、(門外漢の)僕が最も信頼している書き手の一人。


農業経済をどう捉えるか。それは、日本資本主義論争の大きな係争点であったし、
日本における社会変革の主体性を想定=創造するうえでも非常に重要な問題である。


とくに興味があったのは、昭和恐慌による農村社会の変容。
最終章に紹介されている、長野県浦里村のケースは、とても興味深かった。


1920年代を通じて、都市と農村という対立の顕在化を目の当たりにし、農村「改造」運動が始まる。
その中で、村報が創刊され、図書館がつくられ、多くの文芸書と社会科学書が納められる。


1920年恐慌を経て、農村の生活が苦しくなると、青年層の一部が急進化。
若き「改革派」の村長は、反共・反資本主義、農村の「自力更生」と共同体としての精神的紐帯の強化を
訴え、「農村更生運動」に没頭していく……。


思ったこと。養蚕業が中心で、飯米は外部から買わねばならない小農の村としての浦里村の
第1次大戦による富裕化、戦後恐慌以後の慢性的停滞、世界恐慌による決定的打撃、という歴史的な
プロセスを、同じ長野を舞台に、開国と市場経済への包摂が村にもたらす衝撃を描いた
島崎藤村は、いったいどう見ていたのだろうか、ということ。


「夜明け前」における松方デフレと、同時代の世界恐慌。描出にあたって、何等かの関係はあるのか?